食としつらい、ときどき茶の湯

ふつうの暮らしをちょっとよく。背伸びしないで今日からできる、美味しくて心地よい暮らしのヒントを集めています。

家をつくろうとする方・つくられた方の傍で、 家 人 暮らしを永年見守り続けた 元・建築設計事務所 広報担当から
日々の暮らしを見つめるヒントをお届け。家の捉え方、 暮らしの向き合い方を見つけるきっかけになれば嬉しいです。

キキの街、ドゥブロブニク

キキの街

宮崎駿監督のジブリ映画、「魔女の宅急便」が好きな女子は多い。私もその一人。
13歳で一人立ちしたキキが辿り着いたのは 海のそばの小さな街。喜んだり塞ぎ込んだり この年頃ならではの描写に 自分を重ねた人も多いのでは。みんなこんな甘酸っぱい時期を通って大人になっていく。
それにしても、この街はどこなんだろう。何年もそんな疑問を持っていたのだが、あるとき一枚の写真に釘付けになった。クロアチアのドゥブロブニク。青い海に突き出すように街があり、オレンジ色の屋根が続いている。調べてみると、魔女の宅急便の舞台と言われているらしい。舞台と言われる街は他にもあるが、自分と重ね合わせて見ていたキキは ここにいるような気がして、「いつか行きたい」と思うようになった。

いつか、は 今。

それからしばらくして、病気が発覚した。聞いたこともない病気で 検査入院を繰り返した後 大きな手術を受けることになった。ひと一倍健康と思っていただけに まさか生死を彷徨うことになるとは思ってもみなかったが、「人ってあっさり死んでしまったりするものなんだな」と思い知らされるようだった。

回復して退院が決まると 「いつか と思うことは すぐやろう」と決心した。退院から8か月後、おなかを縦に走る縫い目が痛いぐらいで 経過良好 とわかると、ありったけのお金(ないけど。)をかき集め、夫とドゥブロブニクに向かった。

憧れの、ドゥブロブニク

日本を出て30時間余。長いトランジットを経てようやくドゥブロブニクに降り立った。城壁に囲まれた小さな街。オレンジの屋根が続いた先には”紺碧”としか表現のしようのない青い海。とうとう来てしまった!

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9月とはいえ ヴァカンスシーズンの尾をひき 街は人で溢れている。宿は「ソベ」と呼ばれる民家の一室を借りた。ここまで来て普通にホテルじゃもったいない。住むようにこの街を味わいたいのだ。石畳の道、長い階段、頭の上をそよぐ洗濯物、紺碧の海。どれも”あの”世界だ。

ところが夜になると表情が一変する。明かりが灯りどこからともなく音楽が聞こえてきて、大人の雰囲気が漂う。音楽に耳を傾けながら、料理を楽しんだり語り合ったりワイン片手に踊ったり。若い人も年配の人もみんな自由に楽しんでいる。テラスの一角で演奏される心地よいクラプトンを聴きながら、「今を楽しまないと もったいないな」と思った。

13歳のキキを探すつもりでいたけれど、キキだってもう大人になっている。どこで何をしているんだろう。そのへんのテラスでワインを飲んでいるかもしれない。
大人になったキキの住む街は、大人になった迷える元・少女にもやさしくて、「そんなに踏ん張らなくていいのよ」と語りかけてくれるようだった。来てよかった。何かが吹っ切れるような気がした。キキがいたかどうかはわからないけれど、間違いなく、13歳の少女は大人になって、躊躇しないで飛びこむこと そして 今を楽しむことが何より大事だと悟ることができた。

今は今しかないのだ。人生いつ終わるかわからないんだから、全力で楽しまなければもったいない。

 

今週のお題に因んで、「好きな街」でした!